(198) 「柿の実の赤くなるころ」
柿の実が赤く色づく季節になりました。
今日も雲一つない秋晴れのいいお天気で、柿の実も青空によく映えています。
「柿の実が赤くなると、医者が青くなる」と言われるほど柿の実にはビタミンンCやカリュームなどの栄養素が多いそうですが、あの柿の実の紅黄色の色がまた何とも言えません。「赤き実・アカキミ」が「カキ」の語源だといわれるほど、美しい赤い柿の実は日本の秋を象徴する風物になっています。
江戸時代に有田焼の「酒井田柿右衛門」が、この美しい柿の色を磁器にどうして再現しょうかと、散々苦心した話もうなづかれますね。それだけ熟れた柿の実の色には神秘的な美しさと魅力があります。
佐賀地方に昔ながら実生している「伽羅柿・きゃらがき」はそのタンニン物質が固まって黒ゴマのように実の中に散らばっていますが、青いうちは渋くて食べられませんが、この黒いゴマが出来ると甘くなって食べられます。
うちの甘柿はこの「伽羅柿」でいつのころから植わっているのか、記憶にありませんが、最近はカラスが青いうちから、うちの柿の実を食べてしまうようになりました。よく熟れてから食べればいいものを、どうして青いうちから食べるのか不思議でなりません。昔はよくゴルフ場でゴルフボールをくわえて逃げていましたが、最近は食べられないと学習したのか、それともいたずら心が無くなったのか。。
小鳥は植物の赤い実に惹かれると言いますが、とにかくカラスは白い丸いものがお好きのようで、庭の隅にあるお地蔵さんや中央さんに上げる正月の小餅は、必ずすぐにカラスに持って行かれます。
子供の頃、庭の中央さんのそばに、大きな「渋柿」がありました。時々木登りをしたりして遊びましたが、カキの材は堅いくせにもろくてすぐにポキリと折れてしまいます。よく母から危ないからやめなさい!と叱られました。楠も何本か植えてありましたが、こちらは細い枝でも折れにくく、良く飛び上がって枝にぶら下がり、鉄棒のように尻上がりやブランコ代わりにして遊んだものです。
柿には「甘ガキ」と「渋柿」があります。
もともと自生のカキは渋柿でしたが、食用にするために、鎌倉時代以後に改良されて甘柿が出来ました。(突然変異かもしれません。)
柿が渋いのは、含まれているタンニン物質が水溶性のためで、不水溶性になれば「渋柿」も甘くなります。 だから渋柿も渋を抜いて甘くすると食べられます。
母が良く風呂の残り湯に一晩つけておいて甘くしていました。柿の実が大量なので羽釜のお湯では間に合わなかったのでしょうが、今の感覚ではちょっと不衛生な話ですね。とにかく渋柿を40度くらいのお湯に一晩くらいつけておくと甘くなるのです。昔の佐賀の方言では「練り柿」と言っていましたが、単純に甘いだけで、甘柿ほどの風味はありません。
最近ではアルコールにつけてシブを抜くようですね。
渋柿の皮をむいて、縄につるして天日干しにすると、「干し柿」になります。
干し柿は甘ガキよりも甘くなりますが、子供の頃、うちで作った吊るし柿は乾燥が足りないのか、青いカビが生えたりしてなかなかうまくできません。当地の気温の低い山間部では吊るし柿が名産になっていますが、市内では温か過ぎるせいでしょうか。。
今でも山手の小学校では子供たちの柿むき競争もあるんですよー。今は小さい包丁を使いますが、ほんとは日本剃刀が最適だとか。。
干し柿はしわが多いので、「しわが出来るまで長生きする」という意味でお正月の床飾りの「蓬莱山まつり」にも何個か乗せて、年取りの盃がすんだあとに各自が一つ頂きます。
「渋柿」もよく熟したものは、甘くて食べられます。
赤く熟れたトマトのように少しぶよぶよになります。こちらでは「しゅうれん柿」と言いますが、徳島では「ずくし」というそうです。これは「塾柿・ジュクシ」から来たものでしょう。また能登地方では「うんだ」というそうですが、これは「熟れた」から「熟んだ柿」という言葉になったのでしょう。
九州の都城では「じゅくりっしょ」というそうです。なんだか可愛いですね。
佐賀の「しゅうれん柿」という方言は、柿の渋さが口の中がシバレルような収斂作用があるからでしょうか。。
昔は渋柿からは柿渋を取って、生活用にいろいろと使いました。
①和傘に塗って防水用にする。(渋傘)
②渋団扇のように、紙に塗ると強度が増す。
③家の柱や家財に塗って、防腐剤として補強する。
うちの桶風呂にも時々、渋柿から採った渋を塗って防腐剤に使っていました。 子供にとっては、塗ったばかりの風呂の渋の匂いは、何とも嫌なものでしたが。。
昔は露天の桶風呂でした。 中島潔 画
その他、柿のへたは胃腸薬の漢方になり、特にシャックリの止まらないときには効果があるそうです。柿の葉は血圧にもいいそうで、柿の葉茶があったり、柿羊羹や奈良、和歌山地方に多い「柿の葉寿司」などの食用にもなっています。
今は洋風の美味しい果物がいっぱいで、甘いだけの地味な柿の実はとかく敬遠されがちですが、皆さんも季節の果物として召し上がっては如何でしょうか。。
(木守り柿)
昔から、柿の木をちぎるときに一つだけ採り残しておく、という風習があります。木に残しておく柿の実、最後に残った柿の実のことですが、これを「木守り柿」と言います。これは来年も豊作でありますようにと願いを込めると共に、カラスや鳥たちの食べ物として残すのだそうです。
澄んだ秋空を背景に、枯れ枝にひとつだけポツンと残っている柿の実は、いかにも日本の秋らしい風情があります。
柿ひとつ空の青さに堪えんとす 石坂洋次郎
*独り身のつれずれに、長々と書きすぎました。
土、日に帰省していた娘が、作っておいた一週間分の食材をレンジでチンして今から夕食です。