ノモンハン事件 (14)・ 第三話 「背嚢が呼ぶ」 ② 鳥居少尉の場合
鳥居少尉は、北海道旭川第7師団・第28連隊・第2大隊所属の速射砲中隊の小隊長だった。
鳥居少尉は、北海道旭川第7師団・第28連隊・第2大隊所属の速射砲中隊の小隊長だった。
ノモンハン事件が起こると、安岡支隊に編入されて満洲のチチハルから前線へと向かった。
安岡支隊は安岡中将の率いる第一戦車団を主力に速射砲、砲兵,工兵、自動車隊などからなる機甲部隊である。
不毛の草原地帯を行くわが軍の将兵
6月29日の朝、本隊は一足早く戦車百輌を連ねて威風堂々、大草原を前線へと向った。ところが遅れて出発した速射砲隊が合流地点に来てみると、そこで待っているはずの戦車隊が居ない。戦車の姿が一台もないのである。ただ赤茶色に焼け焦げた戦車の残骸があちこちに残って居るだけであった。
敵が草原の砂の中に埋めておいたピアノ線にキャタピラを引っかけて、擱座して動けなくなった所を狙い撃ちにされたらしい。上手く敵の仕掛けた罠に落ちたのである。つまり第2大隊は本隊から置き去りにされて草原の孤児部隊になって居たのだ。
敵が草原の砂の中に埋めておいたピアノ線にキャタピラを引っかけて、擱座して動けなくなった所を狙い撃ちにされたらしい。上手く敵の仕掛けた罠に落ちたのである。つまり第2大隊は本隊から置き去りにされて草原の孤児部隊になって居たのだ。
進撃する日本軍戦車部隊
戦況不明のまま大隊は7月3日の早朝に本隊を求めて西の方に移動することになった。ハルハ河畔に出てみると、向こう岸で敵と戦っている友軍の姿が望見できた。第23師団の須見大佐指揮の第26連隊であった。須見連隊はハルハ河を渡った直後に敵と交戦状態に入った模様である。
対岸の交戦の模様はまず、空中戦が目に付いた。高度2千mぐらいの上空で彼我20機位が入り乱れて交戦しているが、火を噴いて落ちていくのはソ連機ばかりである。次々にソ連機が撃墜されていく様子を遠望して居ていると、とても愉快な気分になる。空中戦の高みの見物というわけである。ところが目を地上に移して須見部隊が対戦車戦を戦っている様子をみると、これはまたすさまじい光景であった。
撃墜されたソ連軍飛行機
火炎瓶を持った兵たちが、迫ってくる敵戦車に向かって攻め込むと戦車は次々に燃え上がる。その燃えさかる戦車から人影が小さく飛び出してくる。ソ連兵が手を挙げてそのまま砂地に座り込む様子を見ていると、日本軍が優勢のように見えたが、須見部隊には1台の戦車もなく、わずかの火砲とサイダー瓶代用の火炎瓶だけで戦っているのだった。
擱座したソ連軍戦車
戦車には右側に鎧窓がある。ソ連のBT戦車はこの鎧窓が50センチくらいあるので、此処を狙って火炎瓶をぶっつけると、焼けているエンジンの熱で車体に火が付き、空冷式なのでその炎を戦車内部に吸い込むのである。そうして車内は一瞬にして火を噴き、その後20時間ほども燃え続けるのである。
須見部隊の将兵が、敵戦車と勇敢に戦い、燃えて擱座したままの戦車はざっと数えても百台を超えるほどだった。
須見部隊の将兵が、敵戦車と勇敢に戦い、燃えて擱座したままの戦車はざっと数えても百台を超えるほどだった。
つづく